将来の夢を語るような年でもないと思うんだよ。
校医になった。
今もそれなりに楽しくやっている。
でも何にも期待せず生きていくような年でもないな、とも思うんだ。
見えない・見せない、光の一本筋。
不可視光線
校医になった。
今もそれなりに楽しくやっている。
でも何にも期待せず生きていくような年でもないな、とも思うんだ。
見えない・見せない、光の一本筋。
不可視光線
「将来の、夢?」
コーヒーをコップに注いでいるときだった。
なみなみと注がれるコーヒーを、零さぬようにだけ注意して。
だからセロくんの顔をよく見ることもせず、話を聞いていた。
「そうです。」
「夢ねぇ……」
首を傾げるばかりだ。
だいたいその話題は最近解決の兆しを見せたところ。
またぶり返すには、何か理由があるな。
そう察したのでのせられてあげることにした。
波のないコーヒーを口へ運ぶ。
あぁ、ちょっと甘い。
顔をしかめながらも、話を促す。
「なんだい。セロくんの夢って」
「笑わないでくださいね」
「お嫁さん」
「………ふーん」
「リアクション小さいですよ……、ほら、折角だしコーヒー吹くとか」
「いや、結構驚いてるよ。っていうかそんな汚いことして欲しい?」
「いやだ……」
「でしょう?それにさ、」
「自分で言って照れるくらいなら言わなきゃいいよ」
バツが悪そうに、頬かくくらいなら。
「そもそも、今から“お嫁さん”だなんて言ってちゃだめだよ。
折角夢見つけたのに。何挫折しそうになってるの」
「……挫折じゃありません」
「じゃあ何」
「もう一個夢ができただけです。この前結婚式見たから……」
ほーう。
「………一体誰のお嫁さんに、」
「先生は!」
あ、遮ったよこの子。
「先生の夢は!?」
あぁそんな赤い顔して。
落とした視線さえせわしなくして。
腹が立つよ。一体誰に恋した?
オレの夢。
なんだったら言ってやろうか。
『きみのお婿さんだよ。』
そんなの馬鹿みたいだ。
言えば事態は何か変わるだろうか。
困った。
「………………」
結局、核心も、無難な答えも言えなくて。
そうしているうちに、
随分落ち着き、勇敢になった彼女の視線。
「ちなみに、私の夢ですよ、」
「先生のお嫁さん」
「は、」
よし言い切った!と一人満足し、
はにかむ、
セロくん。
あぁなんだ、オレなの。
そうなんだ。
ふーん。
「うん」
ほんとはちょっと期待してたよ。
あぁ、これだから。
先手はいつも奪われるのか。
思いは言えない。
だって俺の夢とか、
『きみのお婿さんだよ。』
……死んでも言えない。
<<決して目に映らない光の色>>
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