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2025/07/19 14:44 |
水彩
君と夏の日、

炎天下に揺れる。



さながら水に溶けていく水彩絵の具のように、





水彩






「すーずーしぃー」



冷房のかかった医務室。
いつも通り肌に飛んだ秘色を取り除いた後、
彼女はそのまま涼んでいた。



「いつまでいるのセロくん。」
「もう今日は授業終わりなので」
「帰りなさい」
「いやですー」
「………冷房、切るよ」






切ってもいます。と言った。

あっそう、と彼は返し、きっとまだ当分は自分もここにいるのだろうと本を一冊取り出し、腰掛けた。







窓の外はこの部屋との温度差を感じさせる炎天下、
茹だる暑さに揺れて。

セミは、絶えず、その存在を示す声を。







「今日は、演習だったんですよ」
「うん」
「ペアを組んで、パートナーの鳥の色を織物に落として、二色のグラデーションに、って課題だったんですけど……」
「うん?」
「クロタンにまでヨーヨーの色飛ばしちゃって……」



なんだかんだで斑模様になっちゃいました。

はは。と乾いた笑い。

そしてがくっと頭を下げ、うな垂れる。



「……ペア、フェンネくんだったんだ」
「お願いして組んでもらったんです」
「ふーん」
「先生、突っ込みどころはそこですか」
「あれ、慰めてほしいの?」
「ちょっとだけ」
「次があるよ」
「………はーい」




頑張りまーす。と気の抜けた声が返ってきた。

やれやれ。




「大丈夫だよ」




また失敗したって、何回だって色を落としてあげよう。
何回だって「次がある」と言ってやろう。




あぁ。







こんなに優しくしているのだから。

少しくらい見返りを求めたい。















「フェンネくんって格好いいよね」
「そうですね」
「………」
「なんてったって彼は一年生の星ですからね」
「………そうだね」















所詮期待は裏切られ。















「フェンネくんと組まなくたって上手くいくよ」
「へ?」
「セロくんなら。きっと上手くいく」





今回の失敗がそんなに痛手だったのか、
今日はしつこくしょげて、





「何を根拠に」





訝しげな視線を寄越す。



オレは念を押してやる。





「上手くできる。絶対に。」

「………」





そうまで言うと押し黙る。

オレは視線で彼女を探る。





そうだ、フェンネくんの力なんか頼りにしなくたって。
そんな自分からお願いしたりしなくたって、



お願いしないで。



頼るのはオレだけにしといてほしいよ。






少しの沈黙。少しの思考の後に、
彼女は結論を出したらしく、顔を上げた。







ありがとうございます。



と、

彼女は深々と頭を下げた。





オレはなんだか申し訳なくなってしまった。















「………なんか先生素敵ですね、今日」















オレはなんだか、とても申し訳なくなってしまった。
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2007/08/21 22:01 | Comments(0) | TrackBack() | パレット

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