「ひきとめてほしい」
そう言ったけれど、
「笹舟っ……!」
あぁ、そんな。
彼女を目の前にして、
しかもあと1センチ。
「悪い、甘喃」
志半ばに暗転。
そして意識を手放した。
遠のく天井。
遠のく彼女。
虚弱体質な俺が、架空亭にいられる時間は限られていた。
虚弱体質
そう言ったけれど、
「笹舟っ……!」
あぁ、そんな。
彼女を目の前にして、
しかもあと1センチ。
「悪い、甘喃」
志半ばに暗転。
そして意識を手放した。
遠のく天井。
遠のく彼女。
虚弱体質な俺が、架空亭にいられる時間は限られていた。
虚弱体質
「なんだ、もう帰ってきたのか笹舟」
「……じーさん」
目覚めたのは祖父の書斎だった。
頭がぼーっとする。
天井がゆらゆらしていた。
「この軟弱者め」
「……よく言われる」
「難儀だなぁ。好きな女とも、まともに話せないじゃないか」
なぜ知ってる。
なんだか訊くのも億劫で黙っていた。
しかし逃がしてくれない。
やっぱり生きてきた年数からだろうか、上手はあちら。
「短い時間しか会えないんじゃ、もどかしいんじゃないか?笹舟」
「……うーん」
……話すべきか。
いやこんなことじーさんに言っても。
しかし朦朧とした脳では思考がサボりがち。
いいや言ってしまえ。
愚痴らせてくれ。じゃなきゃやってられないんだ。
「……実はさ」
「うむ」
「キスしようとした瞬間にぶったおれた」
「……あれまぁ」
上手な老人もびっくりである。
「それはそれは」
「ここぞという時をばっちり逃したな」
あぁ仰る通り。
「……もうちょっとだったんだよ」
「ちなみに2人のふぁーすとちっすは」
「まだ」
「……あーあ」
やっちまったな。とご老人。
もっと優しい言葉が欲しいよ。
ため息。
「(……それにしても、)」
一体どんな顔して次会えばいいのだろうか。
あぁ、あんなに盛り上がった雰囲気だったのに。
まさかの戦線離脱。
そのワケ虚弱体質。
終わってる……。
「まぁ、少し休んだら、架空亭に行くことだな」
格好悪くても。
老人はそれだけ言って部屋を出ていった。
―――あぁ天井が遠い。
一度目を閉じる。
プレイバックあの瞬間。
2人きりのあの和室。
畳の匂いと本の匂いの中、壁に追いつめた。
顔の横についた手は震えそうだった。
たじろぐ目線。しかし真っ直ぐ見つめ返し、
そして伏せた瞼。揺れる睫。
耳の、頬の、赤さ。
唇に息がかかるあの距離。
ふらつく頭。
倒れる自分。
驚き声をあげる甘喃。
「笹舟っ……!」
「悪い、甘喃」
謝る俺。
しばらくして暗転。
そして?
「待ってる」
途切れゆく意識の向こう、
彼女は小さく笑って、確かにそう言った。
どうしよう。
「待ってる」
ぎゅっと目を閉じる。
あぁどうしよう。
耳まで熱い。
あの続きを待ってる。
俺は起きなければいけない。
もう起きなければいけない。
いつまでも布団の中でぐづついてちゃいけない。
架空亭に、行かなければ。
「……待ってる。だって?」
あぁ、にやつく。
頬が緩んで仕方ない。
虚弱体質、上等。
生気なんてくれてやるよ。
それでも会いに行くよ。
「待ってる」と言ったコイビトのために。
あの続きを、
残り1センチを埋めるために。
「……じーさん」
目覚めたのは祖父の書斎だった。
頭がぼーっとする。
天井がゆらゆらしていた。
「この軟弱者め」
「……よく言われる」
「難儀だなぁ。好きな女とも、まともに話せないじゃないか」
なぜ知ってる。
なんだか訊くのも億劫で黙っていた。
しかし逃がしてくれない。
やっぱり生きてきた年数からだろうか、上手はあちら。
「短い時間しか会えないんじゃ、もどかしいんじゃないか?笹舟」
「……うーん」
……話すべきか。
いやこんなことじーさんに言っても。
しかし朦朧とした脳では思考がサボりがち。
いいや言ってしまえ。
愚痴らせてくれ。じゃなきゃやってられないんだ。
「……実はさ」
「うむ」
「キスしようとした瞬間にぶったおれた」
「……あれまぁ」
上手な老人もびっくりである。
「それはそれは」
「ここぞという時をばっちり逃したな」
あぁ仰る通り。
「……もうちょっとだったんだよ」
「ちなみに2人のふぁーすとちっすは」
「まだ」
「……あーあ」
やっちまったな。とご老人。
もっと優しい言葉が欲しいよ。
ため息。
「(……それにしても、)」
一体どんな顔して次会えばいいのだろうか。
あぁ、あんなに盛り上がった雰囲気だったのに。
まさかの戦線離脱。
そのワケ虚弱体質。
終わってる……。
「まぁ、少し休んだら、架空亭に行くことだな」
格好悪くても。
老人はそれだけ言って部屋を出ていった。
―――あぁ天井が遠い。
一度目を閉じる。
プレイバックあの瞬間。
2人きりのあの和室。
畳の匂いと本の匂いの中、壁に追いつめた。
顔の横についた手は震えそうだった。
たじろぐ目線。しかし真っ直ぐ見つめ返し、
そして伏せた瞼。揺れる睫。
耳の、頬の、赤さ。
唇に息がかかるあの距離。
ふらつく頭。
倒れる自分。
驚き声をあげる甘喃。
「笹舟っ……!」
「悪い、甘喃」
謝る俺。
しばらくして暗転。
そして?
「待ってる」
途切れゆく意識の向こう、
彼女は小さく笑って、確かにそう言った。
どうしよう。
「待ってる」
ぎゅっと目を閉じる。
あぁどうしよう。
耳まで熱い。
あの続きを待ってる。
俺は起きなければいけない。
もう起きなければいけない。
いつまでも布団の中でぐづついてちゃいけない。
架空亭に、行かなければ。
「……待ってる。だって?」
あぁ、にやつく。
頬が緩んで仕方ない。
虚弱体質、上等。
生気なんてくれてやるよ。
それでも会いに行くよ。
「待ってる」と言ったコイビトのために。
あの続きを、
残り1センチを埋めるために。
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