何かを始めるには遅すぎる。
26時の縁側
26時の縁側
笹舟が架空亭にとどまれる時間は次第に延びてきた。
他愛の無い会話をするだけ。
気紛れに戯れるだけ。
それだけのために彼は少しでも多くの時間を、架空亭で過ごしたいと思った。
そのためにちょっと努力している体力づくりとか。
まぁ余計なことは言わないで。
「次の作品は」
「まだ」
「締め切りは」
「来月頭」
「……なっかなか、大変、な時期じゃないのか笹舟………」
はい。とお茶を出しながら、甘喃は笹舟の顔色を伺った。
しかし存外、そこには余裕が見えた。
「いい。ネタ決ってるし、骨組みも出来てる」
「お。次は何を?」
「ベタベタ恋愛小説」
「……うっそだぁ」
「嘘だよ」
やっぱり。と彼女はけらけら笑う。
笹舟は安堵か、それに近しい類を覚え、口元をほころばせた。
自然、柔らかくなる眼差し。
燃えるような熱情や、
求めるような激しさはそこになくとも、
二人は恋人同士だった。
「つまらん」
そして筆をとる。
「 甘喃」
「ん」
「これは、どういうことだ?」
「知らん。わたしが聞きたい……」
架空亭から。みんな。みーんな消えて、
二人は二人ぼっちになった。
「「なんで?」」
"でもまぁ、うん。みんなすぐそこにいるわけだし。”
そんな理由で抑え、我慢し、押しやった葛藤の数々。
実のところ、未だ二人は手すら繋いでいなかった。
「健全な男女付き合い?清すぎて逆に不健全」
誰かいないかと探し足を踏み入れた客間の一室。
部屋の真ん中には。
一式の布団。
枕、二つ。
うん。
何ともいえないアレな雰囲気をかもしだしている。
「(同衾?)」
どちらの頭に浮かんだことか。
いいえ、どちらも。
口には出さずともこの異様な事態の中、
お互いを意識せずにはいられなくなったり?
「(いやでもこれは、)」
却下だ。
いくらなんでも早急すぎる。
ぬるい二人には。
「さぁ、最高の、恋人の時間だ」
26時の縁側
あぁもうここまでくれば。
真相が読めないわけがない。
架空亭は原稿に書き込めば書き込んだ通りになる。
誰かさんが、俺と甘喃に恋人のシナリオを書いている。
(或いは二人の仲を進展させようと、)
そしてその仕組みを知っているのは………。
本当、にお節介。
26時の縁側に二人並んで座り、空に月を浮かべて。
静かな外の空間で生暖かい夜風に吹かれ話す時間。
恋人のようだな、と思う。
月明かり照らされた隣の彼女はいっそう美しく見える。
すぐ横にある手を取ってその目を見つめることもできるだろう。
甘いセリフの一つくれてやることもできるだろう。
接吻だって、きっと無理じゃない。
だけど、
気に入らない。
「甘喃」
「なんだ、笹舟?」
「好きだよ」
「えっ、う、あ………」
唐突な告白に頬を染め慌てふためく姿を見ると、
このまま乗じてしまおうかと、思ってしまうけど、
「でも乗せられるのは好きじゃない。
それに原稿の恋人役だって、そんなのまっぴらなんだ」
乗せられる?と首を傾ぐ甘喃。
わけがわからないんだろうな。
不安な目が見上げてくる。
「だから甘喃」
不安は、忘れず除いてやる。
「恋人役、じゃなくて恋人として。
手を繋ぐ。あたりから始めてはどうかと思うんだが」
「どうだろう?」
差し出された手。
「それはまた……、」
「ベタな恋愛小説だな。笹舟」
その手をとる。
26時の縁側。
何かを始めるには遅すぎる。
だけど2時の縁側。
始まってからまだ120分しか経っていない。
「"そして2人は手を繋ぎ散歩に出る。"か。じれったいのぉ」
くるくる筆を回す。
皺の深い手。
「どうも思い通りにいかんわ。」
ちぇー、と悪態をつき、筆を置く。
小山芳舟。
「若い2人に老いぼれが口出しするなということか。」
孫の恋路が気になる祖父だった。
しかし、
「笹舟」
「ん?」
「少し早い。歩くの」
「あぁ、悪い。」
これは二人が紡ぐ物語。
他愛の無い会話をするだけ。
気紛れに戯れるだけ。
それだけのために彼は少しでも多くの時間を、架空亭で過ごしたいと思った。
そのためにちょっと努力している体力づくりとか。
まぁ余計なことは言わないで。
「次の作品は」
「まだ」
「締め切りは」
「来月頭」
「……なっかなか、大変、な時期じゃないのか笹舟………」
はい。とお茶を出しながら、甘喃は笹舟の顔色を伺った。
しかし存外、そこには余裕が見えた。
「いい。ネタ決ってるし、骨組みも出来てる」
「お。次は何を?」
「ベタベタ恋愛小説」
「……うっそだぁ」
「嘘だよ」
やっぱり。と彼女はけらけら笑う。
笹舟は安堵か、それに近しい類を覚え、口元をほころばせた。
自然、柔らかくなる眼差し。
燃えるような熱情や、
求めるような激しさはそこになくとも、
二人は恋人同士だった。
「つまらん」
そして筆をとる。
「
「ん」
「これは、どういうことだ?」
「知らん。わたしが聞きたい……」
架空亭から。みんな。みーんな消えて、
二人は二人ぼっちになった。
「「なんで?」」
"でもまぁ、うん。みんなすぐそこにいるわけだし。”
そんな理由で抑え、我慢し、押しやった葛藤の数々。
実のところ、未だ二人は手すら繋いでいなかった。
「健全な男女付き合い?清すぎて逆に不健全」
誰かいないかと探し足を踏み入れた客間の一室。
部屋の真ん中には。
一式の布団。
枕、二つ。
うん。
何ともいえないアレな雰囲気をかもしだしている。
「(同衾?)」
どちらの頭に浮かんだことか。
いいえ、どちらも。
口には出さずともこの異様な事態の中、
お互いを意識せずにはいられなくなったり?
「(いやでもこれは、)」
却下だ。
いくらなんでも早急すぎる。
ぬるい二人には。
「さぁ、最高の、恋人の時間だ」
あぁもうここまでくれば。
真相が読めないわけがない。
架空亭は原稿に書き込めば書き込んだ通りになる。
誰かさんが、俺と甘喃に恋人のシナリオを書いている。
(或いは二人の仲を進展させようと、)
そしてその仕組みを知っているのは………。
本当、にお節介。
26時の縁側に二人並んで座り、空に月を浮かべて。
静かな外の空間で生暖かい夜風に吹かれ話す時間。
恋人のようだな、と思う。
月明かり照らされた隣の彼女はいっそう美しく見える。
すぐ横にある手を取ってその目を見つめることもできるだろう。
甘いセリフの一つくれてやることもできるだろう。
接吻だって、きっと無理じゃない。
だけど、
気に入らない。
「甘喃」
「なんだ、笹舟?」
「好きだよ」
「えっ、う、あ………」
唐突な告白に頬を染め慌てふためく姿を見ると、
このまま乗じてしまおうかと、思ってしまうけど、
「でも乗せられるのは好きじゃない。
それに原稿の恋人役だって、そんなのまっぴらなんだ」
乗せられる?と首を傾ぐ甘喃。
わけがわからないんだろうな。
不安な目が見上げてくる。
「だから甘喃」
不安は、忘れず除いてやる。
「恋人役、じゃなくて恋人として。
手を繋ぐ。あたりから始めてはどうかと思うんだが」
「どうだろう?」
差し出された手。
「それはまた……、」
「ベタな恋愛小説だな。笹舟」
その手をとる。
26時の縁側。
何かを始めるには遅すぎる。
だけど2時の縁側。
始まってからまだ120分しか経っていない。
「"そして2人は手を繋ぎ散歩に出る。"か。じれったいのぉ」
くるくる筆を回す。
皺の深い手。
「どうも思い通りにいかんわ。」
ちぇー、と悪態をつき、筆を置く。
小山芳舟。
「若い2人に老いぼれが口出しするなということか。」
孫の恋路が気になる祖父だった。
しかし、
「笹舟」
「ん?」
「少し早い。歩くの」
「あぁ、悪い。」
これは二人が紡ぐ物語。
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