あなたを好きなわたしは、あなたといたくて。
わたしといると、あなたは可愛くなる気がする。
あなたが可愛いと、わたしはきゅんとする。
わたしはきゅんとすると、あなたを抱きしめたくなる。
あなたを抱きしめると、わたしはまた、あなたを好きになる。
恋心の砂糖漬け
「
「はい」
「何してるの」
デスクに落ち着いていた彼の不意をつくように、
彼女は後ろから腕を回し、彼を抱きしめていた。
それは医務室には珍しい光景だった。
「抱きしめたくなるときってありません?」
「ないよ」
「なんか、こう。だいすき!みたいな。」
「ない。」
「わたしだけかぁ……。」
「セロ君、くるしい。」
すいません。
彼女は一言謝ってぱっと手を放した。
彼はむすっとして後ろを振り返った。
「あんまり調子のっちゃ駄目だよ。」
「先生がちょっと冷たいのでのれてません。」
「それでよろしい。」
「調子にのらせてください。」
「お断りだよ。」
今度は彼女がむすっとして、
じゃあいいです。と言った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・帰らないの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・目をそらしたら負けかなって。
こんなので帰ったら、それこそ、大負けした気分になる。」
「あ、そう。」
二人して、
むすっとしたまま、にらめっこ。
「・・・・・・・・先生冷たい。」
「わがままな子は嫌いです。」
「大人気取りですか」
「失敬な。大人だよ。」
「先生は大人げないです。」
「なんとでも。」
「素直じゃない。」
「………。」
「やる気ないし、ゆるゆる。」
「……………。」
「・・・・・・・でも好きなんですよね。」
目をそらした。
と、いうより、視線がはずれた。
しかしそれは不可抗力。
だってそのはず。
抱きしめられて見えるのは肩越しの景色。
「……先生、苦しいです。」
「ごめん。やっぱりあるかも、抱きしめたくなるとき。」
彼女は目を丸くして、
それから、笑って言う。
「やっぱり。そうでしょう?」
彼はバツが悪そうに顔をしかめるのだ。
彼女を抱えながら。
「わたしの勝ちですね」
「え、俺負けたの?セロ君に。」
「たった今。わたしを抱きしめたことによって。」
「えー。」
「してやったりな気分です。」
「それでもいいよ。それでもいいから、」
「さっきの、”だいすき”ってやつ。もう一回言って。」
いや、それは。と彼女がたじろぐと、
言うまで離さないけどね。と彼が言い足した。
さすがに、
離さなくてもいい。とは、彼女はまだ言えなかった。
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